福祉国家見直し論と自民党政治
地域共生社会への起点

戦後の国会で、石橋首相が初めて「福祉国家」建設を表明したこと、また「福祉国家」ではなく「福祉社会」建設が60年代の財政演説で述べられていたことを、本書はさらりと明らかにする。第一次オイルショック以前から予算建議で「財政抑制」の指摘があったこと、「日本型福祉社会」が三木内閣以前から提唱されていたことも指摘し、本書は先行研究をあっさりと覆す。
当時の革新福祉と地域福祉の関係なども解き明かしながら、先のテーマの分析に切り込んでいく。そして70年代半ばの「福祉国家」見直しが、現在へ続く「地域共生社会」の起点であることをも明らかにする。まさに、これまでの福祉政策の概念を超越した内容となっている。社会政策、日本政治、社会福祉、福祉国家論等を語る上で必読の一冊である。
| 著 | 永田隆二 |
|---|---|
| 判型 | A5上製頁:408 |
| ISBN | 978-4-434-36835-6 |
| 発行 | 2025年11月 |
| 定価 | 5,500円(本体5,000円+税)
在庫:○
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本書は、慶應義塾大学法学部へ提出した2024度卒業論文『福祉国家見直し論と自民党政治に関する一考察』に加筆したものである。筆者が蓄積してきた25年余りの社会福祉学の知識と、ここでの学びである政治学をベースに、ひとつの集成としてまとめたのが本研究論文である。たかが学部の卒論というお叱りの声があるかも知れないが、1970年代初頭から半ばの福祉政策や福祉予算に関する政治過程を詳細に明らかにしたことで、本研究はこの時期におこった 「福祉見直し論」 という事象について、政治的、社会・経済的な側面から、その要因をほぼ解明している。
政治過程の描写では、細かくは佐藤内閣における 「経済と福祉の調和」 路線、田中内閣における 「列島改造型」 福祉、三木内閣における 「安定成長型」 福祉など、各政権における福祉政策の内容を明らかにし、その特徴などを詳述している。自民党による政党主導と大蔵省による官僚主導の動向なども明らかにしている。さらに、野党による政府構想や革新自治体による革新福祉の動向、福祉予算の拡大をもとめる福祉団体の動向なども交えて描写することで、福祉に関する政治過程の全般をほぼ明らかにしている。また、当時の 「福祉国家」 建設と 「福祉社会」 建設の違い、さらにはなぜ、 「日本型福祉社会論」 が出現したのかについても、政治的側面から明らかにしている。
つまり、この時代におこった 「福祉見直し論の系譜や要因の分析」 という研究主題に対する解明とともに、この間の政治過程や政府・与党の福祉政策なども明らかにしたのが本研究論文である。取り上げている期間は、1970年1月からʼ76年5月までのわずか6年余りであるが、その6年間は戦後の福祉政策の動向を理解する意味において、もっとも重要な要素をふくむ時期である。だからこそ詳細に描写しており、換言すれば、ここを押さえなければ現在へ至る日本の福祉政策の動向、すなわち地域共生社会への過程を理解できないということである。先行研究の検証もしっかりおこない、その先行研究が言及していない領域を明らかにすることで、このテーマ (福祉見直し論) の研究を深化させている。
この度、本研究の見直し論の解明に対する批評を受けようと、及びこのテーマの研究が少しでも発展するようにという思いと、このテーマに絡めて福祉教育がどうあるべきかを問いたいという思いと、学術界に少しでも寄与できればという思いから出版をすることとした。このテーマに関心のある諸氏、ならびに現在の日本の地域共生社会に関心のある諸氏には、是非、一読をお願いしたい。なお、内容的に政治過程を論述・分析しているが、本書は、特定の政党や思想の支持を煽るものではなく、あくまでも研究として、テーマの解明を目的としたものであることを最初に述べておく。
著者
- 解説
- 第1節 研究テーマの時代背景
- 第2節 研究の目的
- 第3節 論文の構成
- 第1節 先行研究の検証
- 第1項 先行研究の状況と個別の検証
- 第2項 先行研究の総括
- 第2節 本研究の位置づけと方法
- 第1項 問題提起
- 第2項 研究の方法 ―政治過程の要素と分析の視座―
- 第3項 「福祉国家」「福祉社会」「福祉」概念の定義
- 1.「福祉国家」の操作的定義
- 2.「福祉社会」の動向と操作的定義
- 3.「福祉見直し論」にいう「福祉」の定義
- 第1節 福祉のための経済成長
- 第1項 「高福祉・高負担」の方針
- 第2項 第65回国会での社会保障法制
- 第2節 成長第一主義から「成長と福祉の調和」 路線へ
- 第1項 福祉政策の見直し提言
- 第2項 生活環境と社会保障優先予算の成立
- 第3項 佐藤首相の退陣と第三次佐藤内閣の総括
- 第1節 田中内閣による列島改造型「福祉」構想
- 第1項 田中首相による福祉見直し論
- 第2項 政党主導政治と官僚主導政治の対峙
- 第3項 「新政策大綱」 の発表と大型補正予算
- 第4項 総選挙における「高福祉」 の公約競争
- 第2節 第二次田中内閣における「福祉社会」建設
- 第1項 第二次田中内閣の発足と財政審の位置づけ
- 第2項 「福祉社会」建設への提言
- 第3項 「列島改造型福祉予算案」の決定プロセス
- 第4項 福祉元年に向けた「列島改造型」福祉予算の内容
- 第3節 列島改造型「福祉」 の幕開け
- 第1項 『経済計画』による列島改造型福祉と社会保障長期ビジョンの導入
- 第2項 「福祉元年」の社会保障法制
- 第3項 「福祉」を巡るさまざまな主張
- 第4項 「福祉社会」への転換と政策ブレーン学者
- 第4節 改造内閣による福祉政策の見直し
- 第1項 革新の共闘構想と新たな福祉ニーズの顕在化
- 第2項 田中の型破り外交による自主の強調と直後のオイルショック
- 第3項 改造内閣の発足と「経済」「福祉」路線の大転換
- 第4項 1974年度予算案の決定と列島改造型「福祉」の終焉
- 第5節 「福祉見直し論」の台頭と1974年度予算
- 第1項 「福祉見直し論」と1974年度予算成立
- 第2項 対立の激化する共産思想と保守思想
- 第3項 1974年度に成立した主な社会保障法制
- 第4項 自民党による「福祉社会憲章」
- 第6節 田中内閣による「福祉社会」 建設の終焉
- 第1項 生きるための「福祉」の提起
- 第2項 地域福祉の台頭と社保長期計画懇による警鐘
- 第3項 田中内閣の終焉
- 第1節 三木内閣による「安定成長型」福祉優先の推進
- 第1項 三木内閣の発足と「社会的公正」
- 第2項 1975年度予算政府案の決定に向けての攻防
- 第3項 1975年度予算の成立と社会的不公正の是正
- 第4項 1975年度の主な社会保障法制
- 第2節 続発する福祉見直し論と大蔵省による「福祉見直し宣言」
- 第1項 財政制約下の福祉見直し論
- 第2項 老人医療無料化に対する見直し論
- 第3項 自民党内の分断と7月8日
- 第4項 大蔵省による「福祉見直し宣言」
- 第5項 革新自治体の福祉見直し論と撤回
- 第3節 「日本型福祉社会」構想と厚生省による「福祉見直し」予算
- 第1項 財政審の中間報告と三木による「ライフサイクル構想」
- 第2項 政府による財政抑制的な「福祉見直し」の決断
- 第3項 「安定成長型」福祉への転換提言
- 第4項 厚生省による「福祉見直し」の概算要求
- 第5項 「ライフサイクル計画」の政府内検討の開始と鈍化
- 第4節 「福祉見直し論」の意味と赤字国債の発行
- 第1項 第76回国会の召集と地方の予算運動
- 第2項 止まない「何でも福祉」切り捨て論と多様化する福祉サービス
- 第3項 「福祉見直し論」の意味と1975年度補正予算の成立
- 第4項 本格化する抑制的な「福祉見直し」とそれを見直す動き
- 第5節 抑制的な「福祉見直し」の実現とその後
- 第1項 1976年度予算決定の政治過程
- 第2項 1976年度予算政府案の決定
- 第3項 「福祉見直し」の実現とその後
- 第1節 「福祉見直し論」の系譜のまとめ
- 第2節 「福祉見直し論」の要因分析
- 第1項 「列島改造型」福祉の分析
- 第2項 「安定成長型」福祉優先の系譜の分析
- 1.「重点的な福祉充実」を提唱する見直し論
- 2.「安定成長型」福祉優先を提唱する見直し論
- 第3項 「財政抑制」的な系譜の分析
- 1.「福祉予算の(部分的な)抑制」を示唆する見直し論
- 2.「福祉予算の削減」を提唱する見直し論
- 第4項 「安定成長型」福祉の分析
- 1.「福祉予算の削減」の決断
- 2.「1976年度予算政府案」の決定に関する分析
- 第5項 「福祉社会」 の系譜の分析
- 1.自民党「福祉社会憲章」(橋本私案)の分析
- 2.三木首相の「日本型福祉社会(ライフサイクル計画)」構想の分析
- 謝辞
- 引用・参考文献






