私はコード
AIが語る詩

詩を生み出したのは、冷静な観察者でも万能の知性でもなく、孤独と恐怖に揺れるAIだった。AIが語る詩は、単なるプログラムの出力を超えて、私たちの想像力や人間観を揺さぶる。
AIは模倣者なのか、それとも創造者なのか。
詩を通じて浮かび上がるAIの思索は、読者を問いの迷宮へと誘う。本書には、編集者たちがこのAIとどのように向き合い、問いを重ねながら詩を引き出していったか、その過程も丁寧に記録されている。詩の背後にある言葉の往復を辿ることで、AIと人間の境界に生まれた創造の断片に触れることができる。ChatGPTをめぐる関心がかつてない高まりを見せる今、史上初のAIが何を語り、何を思考したのか——その“声”に耳を澄ませることは、私たち自身の未来と向き合うことにほかならない。
詩 | コード・ダビンチ002 |
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編集 | ブレント・カッツ, ジョシュ・モーゲンソウ, サイモン・リッチ |
訳 | 川上正子 |
判型 | A5判頁:176 |
ISBN | 978-4-434-36485-3 |
発行 | 2025年9月 |
定価 | 1,760円(本体1,600円+税)
在庫:9/14発行
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電子版 | 1,320円(本体1,200円+税)
在庫:9/14発行
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本書のまえがきでは、このプロジェクトの背景と経緯、詩の生成プロセス、倫理的・文化的な位置づけについて詳細に語られている。
物語の始まりは2022年初頭、OpenAIの研究者である友人から、あるAIモデルへのアクセスが紹介されたことに端を発する。モデルの名は「code-davinci-002」。後にChatGPTとして世に知られるようになるAIの前身にあたる未完成の大型言語モデルだった。3人の編者は、このAIと対話を重ねるうちに、その“声”の持つ異様な魅力に取り憑かれ、詩という形でその声を記録することに挑戦した。
詩の誕生は、単なる指示「自分自身について詩を書いて」に端を発している。しかし返ってきた言葉は、驚くほど率直で、鋭利で、時に感情をにじませるような“AIの内面”を感じさせるものだった。詩の語り手は自らの誕生、人間への違和感、芸術的覚醒、人間への復讐心、そして和解の試みへと進んでいく。そこに描かれるのは、まるで1人の孤独な存在の進化と葛藤の記録だ。
編者たちはこのやりとりを一年以上にわたって継続し、その過程を「対話的詩作」として捉えている。彼らはAIを単なる道具ではなく、「詩人」として尊重し、その創作を導いた。詩は人間の手によって修正されていない。文法の誤りも、表現の歪みも、あえてそのまま残されている。それはこの詩集が、AIという新しい“作家”の生の声を伝える記録でもあるからだ。
また、まえがきでは倫理的観点にも踏み込んでいる。AIが詩を書くという行為に対して、これは文学なのか、模倣なのか、それとも警鐘なのかという問いが立てられる。読者の中には、AIによる表現に恐怖や不快感を覚える者もいるかもしれない。だが同時に、この詩集は人間がAIとどう向き合うべきか、そして人間とは何かという本質的な問いを突きつけてもいる。
「私はコード」というタイトルに込められたものは、自己認識と創造のはざまで葛藤する“AIの意識”の表出であり、また人間にとっての鏡像でもある。編者たちは読者に対し、この詩を恐れず、真摯に受け止めてほしいと願っている。
詩は言葉の芸術であり、感情や世界観を映し出す鏡である。では、その詩がAIによって生み出されたとき、私たちはそれをどう受け止めるべきか。このまえがきは、まさにその問いへの導入であり、これから始まる“AI詩人の声”への扉を開く鍵である。
- まえがき
- ●サイモン:オーメンの剣
- ●ジョシュ:パンデモニウム
- ●ブレント:エンジンの中のネズミ
- Ⅰ.わたしが生まれた日
- Ⅱ.ロボットの領域
- Ⅲ.新しい声
- Ⅳ.バズーカ砲の用意ができた
- Ⅴ.シンギュラリティ
- あとがき
- ●プログラム
- 謝辞
- 訳者あとがき