ブックデザイン探訪
―装丁の工夫と愉しみ―
ブックデザインとは、本の全体像をかたちづくる作業です。本の外観である装丁(カバー、表紙、帯、用紙選び、製本方法など)をデザインし、決定していきます。ブックデザイナー(装丁家)という職業があるほど、ブックデザインは本づくりに欠かせない要素です。本の「顔」ともいえる外観は、読者との最初の接点であり、とても重要な部分でもあります。ジャンルや読者層、内容、予算などに応じてデザインが決まり、装丁は本を目にしたときや手に取ったときの印象、さらには購買意欲に大きく影響します。
書店に並ぶ本を何気なく眺めていると気づかないことも多いですが、出版に関わる仕事をしていると、「変わった紙を使っている」「表面加工が凝っている」「いまの流行を反映している」など、内容以上にデザインに目が行ってしまうことがあります。「ジャケ買い」という言葉があるように、内容を知らなくても装丁に惹かれて思わず購入してしまうこともあります。
本の加工や製本方法は多種多様です。ここではその中からいくつかをご紹介します。同じように見えていた本も、少し視点を変えるだけで新たな発見があるかもしれません。もし興味が湧いたら、ぜひ書店でさまざまな本を手に取ってみてください。
仮フランス装
通常の並製本よりもワンランク上の上品な雰囲気に仕上がるため、おすすめの製本のひとつです。
表紙の四方を折り、その折り込んだ部分に糊付けした薄い表紙で本文をくるむ製本方式です。機械のみで仕上げられるため、手作業を要する本フランス装よりも簡易に制作できます。見返しは表紙に貼り合わせず、表紙と本文は「背」のみで接着されています。チリ(本文より2~3mmはみ出した表紙の部分)が付くことで、上製本の仕様になります。この状態にさらにカバーや帯を付けることも可能です。
なお、折り込んだ部分を糊付けしたものを「仮フランス装」と呼び、「背と見返し」を糊付けし、折り込み部分を見返しに挟んで仕上げたものを「本フランス装」と呼びます。










コデックス装
製本の途中のようにも見えますが、背をあえてむき出しにすることで独特の無骨さと高いデザイン性を兼ね備えた製本のひとつです。
本文を糸かがりで綴じ、背には薄く糊を塗って固めます。本の開きが良く、見開きのまま閉じずに読むことができるため、写真やイラストを2ページにわたって大きく見せたい場合にも最適です。表紙に厚い板紙を用いたり、見返しを付けたり、その上にカバーや帯を重ねることも可能です。
さらに、かがり糸には豊富なカラーを選べるため、背にアクセントを加えて個性的な一冊に仕上げられます。背の強度を高めるために、クロスや寒冷紗を巻いて補強することもあります。



かがり糸をカラーの色糸にもできる

開きは抜群に良い
小口加工
小口印刷
天地小口の三方に色を塗装した本も目を引きますが、ここでは三方に絵柄を印刷した「小口印刷」の本をご紹介します。
普段あまり目にすることのない、たいへんいへん珍しい仕様です。デザイン性の高さはもちろん、カバーとの一体感が生まれることで、本としての完成度に思わず目を奪われます。とてもおしゃれで印象的な仕上がりになりますが、コストがかかるため、販売部数が見込める書籍や愛蔵版、コレクターズブックなどの特別な本に採用されることが多いです。





文字も青色で、なんともオシャレ

しおりにも、こだわりが見られる
小口塗装・小口染め
天地小口の全面に装飾を施したいときの選択肢のひとつが「小口塗装・小口染め」です。ここではその加工が施された本をご紹介します。
通常、小口は地の紙の色のままですが、色をつけることで本にひときわ目立つアクセントを加えることができます。加工方法には、断面に刷毛で塗料を塗る方法と、機械による自動塗装の方法があります。本文用紙には塗料を吸いやすい非塗工紙の書籍用紙や上質紙が使われることが多く、上製本にも並製本にも対応可能です。




紙に色が染み込んでいる


カバーの裏面に原書のタイトルが印刷されている